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「こんな経営手法はいらない「こんな経営手法はいらない」まえがき
■小林収
小林編集長時代に日経ビジネスから出た「こんな経営手法はいらない」の前書きを転載させていただきました。

ガースナーIBM会長が教える「経営改革二つの過ち」

 バブル経済崩壊後の1990年代前半、「ポスト日本的経営」という言葉が流行語になりました。右肩上がりの高度経済成長を前提とした日本の経営システムが制度疲労を起こし、新たな経営システムが求められたわけです。
 その頃です。マイケル・ハマー氏とジェームス・チャンピー氏が著した『リエンジニアリング革命』が日本でもベストセラーを続け、リエンジニアリングが経営者の合言葉になりました。「仕事の進め方を根本から革新する特効薬」との前口上に多くの企業人が酔いしれました。
 しかし、しばらく経つと、「あれは日本の企業体質には合わない経営手法だった」とブームは過ぎ去りました。ハマー氏らの主張が間違っていたのでしょうか。そうではありません。現状否定から出発しなければ始まらないにもかかわらず、日本企業にはそれができなかったためです。
 99年、IBMのルイス・ガースナー会長兼最高経営責任者(CEO)にインタビューした際、「リストラをする場合に経営トップが犯す二つの過ちがある」と指摘されました。第1の過ちは、「新しいビジョンを安易に打ち出すこと」。経営トップが、現状から脱却するため別の企業に変身するなどと平気で口にする。裏にあるのは、努力なしでも大変革できるという安易な考えです。第2の過ちは、「社員に変化しろと命令して、それで終わってしまう。」変化を好む社員は多くない。にもかかわらず、指示だけ出して変革できると勘違いする経営者が多いのです。
 93年IBMに入社したガースナー氏は、最初の2、3年「なぜ変化が必要なのか」を口酸っぱく社員に説き続け、その上でリストラに必要な難しい決定を下しました。組織を変え、報酬体系や評価制度、意思決定方法を作り直し、社員の視線を社内から市場と顧客に向け直すために直接社員に会い、電子メールを出し、自分のメッセージを録画したビデオを配りました。経営改革の背後には、地道な経営者の努力があったわけです。だからこそIBMの復活劇は成功したのです。
 本書の問題意識は、ガースナー会長が指摘した「二つの過ち」と共通しています
 「新しい経営手法を導入したのに、効果があがっていない企業が実に多い。その問題点を探ってみよう」との考えから取材を始め、サプライチェーン・マネジメント、ISO、顧客満足度、新賃金制度、e組織などのテーマについて様々な角度から企業の実態に迫りました。結果、ガースナー流に言えば「新しい経営手法を安易に導入する」「社員に新しい経営手法を採り入れろと命令して、それで終わってしまうという二つの過ちがそこかしこに見受けられました。
 経営手法を否定するのが本書の目的ではありません。経営手法を安易に導入するとどんなに手痛い目に企業が遭うのか、問題点を浮き彫りにし、改善の第一歩に役立ててもらうのが目的です。
 本書は1999年から2000年春にかけて掲載した「日経ビジネス」の記事から選び、加筆・修正しましたが、登場する企業、人物の名前、肩書きはすべて掲載当時のままとしました。この場を借り、取材にご協力いただいた関係者の方々に厚く御礼申し上げます。

 日経ビジネス編集長 小林 収



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