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「MJ部長のコラム」(日経MJメールマガジンより)2001.10.3
■小林収

『「狂牛病」は人災である』

 テロへの報復攻撃を巡ってアフガン情勢が緊迫していますが、巷でテロ問題以上に噂が乱れ飛んでパニックになっているのは狂牛病でしょう。近所の焼肉屋をのぞいても店内はガラガラ。スーパーには「これはオージービーフ(豪州産)です」という張り紙が目立ちます。学校給食から一時的に牛肉を排除する動きまで出てきました。関連業界はまさに存亡の危機に立っています。

 しかし、狂牛病は病気自体としてどれだけ危険度が高いのでしょう。危険度は「感染率」「感染スピード」「致死率」という要因で決まりますが、狂牛病は感染率が非常に低い。英国では1986年に初めて牛での症例が発見された後、4年近く事態が全く放置され(89年末に内臓肉食用禁止令)、人間に染る可能性を認めたのは96年でした。

 あえて乱暴な言い方をすると、これだけ政府が長期間無策でも、人間の感染者は15年間に累計100人程度なのです。しかも、潜伏期間は長く(感染スピードが遅い)、致死率は現時点では高いですが、実験室段階ではさまざまな治療方法が模索されています。冷静に考えてみれば、パニックに陥る理由は少ないのです。

 それが大騒ぎになったのは、欧州でも、そして日本でも当局の対応の拙さです。英国政府は10年間も「人間には染らない」と公言してきました。欧州各国も「問題は英国産の牛だけで、大陸産は大丈夫」と言ってきました。

 そして今回の日本です。もし、農林省が欧州での昨年11月の狂牛病騒動を受けて、「可能性はゼロではないが、極めて低く、かつ検査体制も整えている」と言っておれば、事態はずいぶんと違ったはずです。検体を英国に送らないと狂牛病にかかったかどうかチェックもできない、という弛みの発覚と、焼却したはずの牛を再使用に回していたというウソの報告が、パニックを引き起こしました。その意味で狂牛病問題は役人による人災なのです。

 事ここに及んでは、パニックを鎮めるのは、欧州がやっているような出荷前の1頭づつの検査しかないでしょう。コストは農林省の既存の予算内から捻出すべきです。何かと批判の多い農道建設のカネを削って食肉の安全システム構築に回すーーそれが、国民の「食」の安全を担うべき役所の責任の取り方だと思います。 



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